「東京奇譚集」 – 村上春樹
春樹さんの最新小説、五編の不思議な話。とても楽しく読むことができました。短編集なので気楽に読めますし。それでも春樹さんの魅力が端々ににじみ出ており、ファンとしてはうれしい限りです。
春樹さんの小説ではよくあることですがいわゆる“答え”は出てこないので、物語の不思議さに、また謎に“答え”を求める方、また“答え”が与えられないと消化不良のような、満足できない、という方は読後に「?」が残って落ち着かないかもしれません。
「謎」は「謎」として受け入れてしまえる方は物語を楽しむことができると思います。
この「東京奇譚集」に収められているお話にもたくさんの不思議、謎が出てきます。でもそれらを「解決」しよう、という種類のものではありません。
「こんなこともあるんだ」「こんなこともあるのかもしれないな」
そういう風に読める方はとても楽しめる作品だと思います。私は好きです。現実世界でだってそうそう「答え」なんてあるものじゃないし…ね。
「東京奇譚集」には五編の物語が収められているわけですが個人的に気に入ったのは、「偶然の旅人」と「どこであれそれが見つかりそうな場所で」です。
春樹さんは短編をまず書いて、それを長編小説に新たにもっていく、という形をとることがあるので、もしかしたらこれは長編でまた書かれるかもしれないな、などと思うものもありました。
この前も少し書きましたが、今回の装丁は個人的に大好きです。カヴァーも落ち着いた和風という感じで深みがありますし、中の紙質や色も好みです。
そして忘れてはならないのが書体。楷書体を少し滑らかにした行書になるのかな? 最初慣れるまで2,3ページかかるのですが、のちにそれがとても馴染んで、「この書体がいい」というふうになりました。味わい深い書体です。日本語の美しさを実感した書体でした。
ごちそうさまでした!